スーパーカブ カスタム50のオイル交換をしました。
クルマのオイル交換だと、ジャッキアップしてリジッドラック(ウマ)をかけて、下に潜って、アンダーカバーを外して……という一連の儀式が必要になります。
夏場だと汗だくです。
ところがカブはどうか。
サイドスタンドを立てて、17mmのスパナでドレンボルトを緩めるだけ。
車体の下に潜る必要すらありません。地面に膝をついて、ちょっと覗き込むだけで作業が完結してしまう。
この「気楽さ」は、実際にやってみると想像以上です。
オイル交換のハードルが下がるということは、そのまま交換頻度が上がるということでもある。
整備しやすいものは、整備される。
今回は、そのオイル交換で使ったパウチ入りのエンジンオイルと、自作の廃油受け、そして意外と知られていないオイルゲージの上限・下限の差=約100ccという話をまとめておきます。
今回使ったオイル:MAXFactory 4サイクル パウチ MA 10W-40
スペックはこうです。
| 粘度(SAE) | 10W-40 |
| ベースオイル | 鉱物油 |
| 規格 | JASO MA(二輪湿式多板クラッチ対応) |
| 容量 | 1L(パウチパック) |
| 用途 | 4サイクル二輪車用(2サイクル不可) |
「マックスファクトリー」って、あのフィギュアの会社?
正直に言うと、私も最初にこの名前を見たときは「ん?」と思いました。マックスファクトリーといえばフィギュア・プラモデルのメーカーが有名ですが、まったくの別物です。
エンジンオイルの「MAXFactory」は、東京都昭島市の日本オイルサービス株式会社が展開する潤滑油ブランド。
調べてみると、2010年から全国のホームセンターやカー用品店で展開されているブランドで、車種や用途に合わせた幅広いラインナップを比較的安価に提供しているのが特徴です。
同社は自動車メンテナンス製品のOEM受託製造や、プライベートブランドの構築支援、国内外ブランド潤滑油の卸売を手掛けている会社。
つまり「オイルを作って売るのが本業」の会社が、自社ブランドとして出しているものということになります。
ここは私にとって結構重要な判断材料でした。素性の分からない格安オイルではなく、流通と製造の両方に足場がある事業者の製品である、という点。
ホームセンターの棚に十年以上並び続けているという事実自体が、ひとつの信頼の証明でもあります。
パウチ容器は「凸版印刷の受賞パッケージ」だった
そしてもうひとつ、調べていて一番面白かったのがこのパウチ容器の出自です。
このパウチ、実は凸版印刷が開発した液体製品用スタンディングパウチ「エアホールドパウチ」を採用したもの。
パウチのサイド部分に空気を縦方向に封入することで自立性を高めた構造で、見た目だけでなく持ちやすさ・注ぎやすさを実現しています。
そして空気を封入した部分から簡単に開封して空気を抜けるため、小さく折りたたんで廃棄できるという設計。
この「MaxFactoryエンジンオイル 1Lパウチ」は、2016年の日本パッケージングコンテストで受賞しています。
ただの安売りオイルだと思っていたら、容器の方が表彰されていた。こういう裏側を知ってしまうと、なんだか急に愛着が湧いてきます。
・空になったら畳んで、燃えるゴミへ。空き缶が家に溜まらない
・注ぎ口が柔らかいので、狭いカブの注入口にも角度を合わせやすい
・残ったら口を閉じて保管できる(継ぎ足し用として車載も可)
・軽い。捨てるときの罪悪感が少ない
オイル交換をDIYでやっていると、地味にストレスなのが「空き缶の処分」なんですよね。
自治体によっては油の付いた金属缶を素直に引き取ってくれない。
ガレージの隅に空き缶が積み上がっていく光景に見覚えのある方も多いはずです。パウチはこの問題を丸ごと消してくれます。これは想像以上に快適でした。
指定は10W-30。なぜ10W-40を入れたのか
スーパーカブ カスタム50の指定オイルは10W-30です。
ホンダ純正で言えばウルトラが標準解。それを承知の上で、今回あえて10W-40を選びました。
理由は単純で、うちのカブが古く、オイルを喰っているからです。
年式の進んだ空冷単気筒では、ピストンリングの摩耗やバルブステムシールの硬化によって、燃焼室にオイルが入り込む「オイル上がり」「オイル下がり」が起きます。そうなると、走行距離に比例してオイルが減っていく。
減ったまま走ればさらに油膜が厳しくなり、摩耗が進む——という悪循環に入ります。
ここで粘度を一段上げる意味は、大きく二つ。
- 高温時の油膜保持:40番は30番より高温での粘度が高く、油膜が切れにくい。摩耗が進んでクリアランスの広がったエンジンには効きます。
- 消費量の抑制:粘度が高い分、狭い隙間からの通り抜けが減り、燃焼室への侵入量が多少なりとも減る。
なお、低温側の「10W」は変えていないのがポイントです。始動性は10W-30と同等。冬場の徳島でセルもキックも渋くなる、ということはありません。
上げたのは高温側だけ。旧車に対する粘度アップとしては、もっとも穏当で理にかなった選択だと思っています。
なぜ化学合成油ではなく鉱物油なのか
これも意図的な選択です。
オイルを喰っているエンジンに高価な100%化学合成油を入れたところで、その高級オイルを燃やして排気管から捨てているだけになります。
それに、古いエンジンの場合、洗浄性の高い合成油がスラッジを剥がしてしまい、かえって隙間が広がって漏れや消費が増えるという話も昔からあります。
それよりも「そこそこの品質のオイルを、短いサイクルでこまめに換える」方が、実利としてはずっと大きい。
1Lあたりの単価が安いというのは、それ自体が「頻繁に交換できる」という性能なのです。
JASO MA規格を取得しているので湿式クラッチも問題なし。カブの遠心クラッチにも安心して使えます。
廃油受けは自作。4Lのオイル缶をひとつ潰すだけ
作業に入る前に、うちの廃油受けを紹介しておきます。
市販の廃油処理箱(吸わせて燃えるゴミに出すタイプ)ではなく、空になった4Lのオイル缶を加工した自作品を使っています。
作り方は単純で、缶を横倒しにして、側面の中央をハンマーで凹ませ、その凹みに穴を開けるだけ。以上です。
・凹ませてあるので、落ちてきた廃油が穴に向かって流れる。多少狙いが外れても缶が拾ってくれる
・横倒しなので背が低い。カブのドレンボルトの真下という狭い隙間にすっと入る
・倒れない。缶の側面が丸ごと接地しているので安定感が段違い
・そのまま保管できる。抜いた廃油は缶の中。フタをすれば密閉されるので、次の交換までガレージに置いておける
・元々のオイル缶の注ぎ口から処分できる。まぁ、蓋はできないので別容器に移し替えて処分場まで持っていくわけですが…
市販の廃油処理箱は1回ごとに買って捨てる消耗品ですが、これはタダで、しかも繰り返し使えます。
オイル缶なんて、クルマの交換をやっていれば嫌でも出てくるもの。
なお、溜まった廃油の処分は各自治体のルールに従ってください。
ガソリンスタンドやバイク屋さんで引き取ってもらえることも多いですが、缶ごと持っていけるのもこの方式の利点です。
作業:スパナ一本、20分
使う工具は17mmのメガネレンチだけ。
カブのドレンボルトは周囲に障害物が少なく、真横から素直にかかります。ラチェットもソケットも要りません。
1. 暖機して、抜く
まず近所を5分ほど走ってエンジンを温めます。オイルが柔らかくなって抜けやすくなるうえ、内部の汚れを巻き込んだまま排出できるからです、多分。
戻ってきたら自作の廃油受けをドレンボルトの真下にセットし、17mmのメガネレンチで緩めます。最初だけ力が要りますが、あとは指で回るはず。
最後の一回転でボルトが外れて熱い廃油と一緒に落ちるので、受けの中に落としてしまわないよう注意。
4Lのオイル缶を凹ませて穴を開けただけの自作廃油受け。背が低くて安定するので、カブの車高でも余裕で入る。
抜けている間にオイルゲージも外しておくと、空気が入って抜けが早くなります。
5分ほど放置し、ポタポタが落ち着いたら完了。
ドレンワッシャー(アルミパッキン)を新品に交換してボルトを締めます。
アルミの潰し代で密封する部品なので、再使用すると滲みます。数十円の部品をケチって滲ませ、あとで油面を気にするのは本末転倒。まとめ買いしておくのが吉です。締め付けトルクは約24N・m、感覚で言えば「スパナで軽くグッと」程度。アルミケースなので締めすぎは厳禁。
2. 入れる(ここでパウチが効く)
そして注入。ここでパウチの真価が出ます。
従来の金属缶だと、口が硬くて角度が付けられず、漏斗(じょうご)が必須でした。ところがパウチは柔らかいので注ぎ口を自由に曲げられる。カブのオイル注入口は車体の右下、しかも横向きという地味に面倒な位置にありますが、パウチなら口先を押し潰して細くし、そのまま突っ込んで注げます。
漏斗いらず。
しかも自立するので、途中で置いても倒れません。片手で車体を支えながら注ぐような場面でも扱いやすい。「注ぎやすさを実現した」というメーカーの説明は、営業文句ではなく本当でした。
パウチは口先が柔らかいので、漏斗なしで直接注げる。1Lのうち0.6Lを入れて、残りは継ぎ足し用にキープ。
入れる量は0.6L。
1Lパウチなので0.4Lが残りますが、これは口を閉じて保管しておけばそのまま継ぎ足し用。
オイルを喰う個体なので、この残りが次の交換までの間にちょうど効いてきます。缶だと開けたら最後という感じですが、パウチは再クローズできるのが地味にありがたい。
本題:オイルゲージの上限と下限、その差はたったの100cc
さて、ここからが今回いちばん書きたかった話です。
スーパーカブC50系の油量を整理すると、こうなります。
| オイル交換時(ドレンから抜くだけ) | 約0.6L |
| 全容量(エンジン分解時) | 約0.8L |
| ゲージ上限〜下限の差 | およそ100cc(0.1L) |
つまり、ゲージのアッパーからロアまで、コップ半分程度しかないということです。
これがどういう意味を持つか。クルマだとオイルゲージの上下差は1L近くあることが多く、「まあ真ん中あたりにあればOK」という大雑把な運用が通用します。ところがカブは総量0.6Lのうちの100cc。全体の1/6です。
100cc減っただけでロアまで落ちる。
裏を返せば、ちょっと入れすぎただけで簡単にオーバーするということでもあります。
油面が高すぎると、クランクウェブがオイルを叩いて撹拌抵抗になり、ブローバイに大量のオイルミストが混ざります。その結果、エアクリーナーボックスにオイルが吹き返す。カブでよくある「エアクリの中がオイルでベタベタ」の原因の一定割合は、単なる入れすぎです。「多めに入れておけば安心」は完全な誤りだと思ってください。
ゲージを100cc単位で読み間違える、たった一つのミス
そして、この100ccという狭さゆえに致命的になるのがゲージの読み方です。
結論から書きます。
② 平地で車体を垂直に立てる(サイドスタンドのままはNG)
③ ゲージは「ねじ込まず、差し込んだだけ」で読む
③がすべてです。ねじ込んで読むと、ゲージがネジ山の分だけ深く入り、実際より油面が高く表示されます。
この読み違いはちょうど100cc規模のズレを生みます。つまり「ねじ込んで読んでアッパー付近」の状態は、正しく測ればロア付近ということが普通に起こる。
「うちのカブ、ずっとゲージは真ん中なんだけどな」と思っている方——一度、ねじ込まずに測ってみてください。
慢性的なオイル不足で走っていた、というパターンは決して珍しくありません。
②も侮れません。サイドスタンドで駐めた状態は車体が左に傾いており、右側にあるゲージ穴から見た油面は当然高く出ます。ハンドルを持って垂直に立て、その状態で測る。ひとりでやるなら、壁に軽く寄せるか、メインスタンドのある車体ならメインスタンドで。
100ccの差は、健康診断でもある
見方を変えると、この狭さはエンジンの状態を鋭敏に教えてくれるセンサーでもあります。
- 1,000km走ってもほぼアッパー → エンジンは健康
- 1,000kmでロアまで落ちる → 100cc消費。旧車なら許容範囲だが要観察
- 500kmでロアを割る → オイル上がり/下がり、あるいは漏れを疑う段階
補給が必要になったら、50cc刻みで慎重に。「とりあえずドバッと」は禁物です。100ccしか幅がないのですから。ここでも、残しておいたパウチの0.4Lが役に立ちます。
なお、減りが異常に速い場合は消費ではなく漏れの可能性もあります。
ドレンボルト周り、クラッチカバーの合わせ面、クランクケースの左右合わせ面、そしてドライブスプロケット裏のオイルシール。このあたりを一度きれいに拭いてから数百km走り、どこが濡れてくるかを見れば、犯人はだいたい判明します。
交換サイクルは「3,333km」にしています
私のカブのオイル交換サイクルは3,000kmが目安です。ただし、実際にオドメーターに設定している数字は3,333km。
理由は完全に実務的なもので3,333にしておくと、3回の交換で10,000キロになるのでわかりやすいということです。
これは記憶術というより、仕組みで解決するアプローチです。「気をつける」「覚えておく」といった意志に頼る管理は、必ず破綻します。破綻しない管理とは、意志を必要としない管理のこと
カブ系の一般的な指定は「初回1,000km、以降3,000kmまたは1年ごと」。走行距離が伸びなくてもオイルは劣化するため、年に1回は距離に関わらず交換が原則です。近所の足として乗っている場合は、むしろ「1年」の方が先に来ることも多いはず。
まとめ
・MAXFactoryは日本オイルサービス(東京都昭島市)のブランド。2010年から全国のホームセンター等で展開されている、素性のはっきりした製品
・パウチ容器は凸版印刷の「エアホールドパウチ」で、2016年の日本パッケージングコンテスト受賞。漏斗なしで注げて、空き缶も出ない
・指定10W-30に対し10W-40を選択。オイル消費のある旧車に対して、始動性を犠牲にせず高温側の油膜だけ強化する穏当な策
・鉱物油で正解。喰うエンジンには「安いオイルをこまめに」が合理的
・廃油受けは4Lオイル缶の自作で十分。凹ませて穴を開けるだけ、6回分溜められてタダ
・工具は17mmメガネレンチ一本、所要20分。ジャッキアップ不要
・ゲージの上限〜下限はわずか100cc。ねじ込まずに、垂直で、暖機後に測る
・交換サイクルは3,333km管理。意志ではなく仕組みで忘却を防ぐ
カブは、乗るのも気楽なら整備するのも気楽な乗り物です。そしてその気楽さこそが、結果的にエンジンを長持ちさせている。オイル交換を「面倒な義務」ではなく「20分の散歩ついで」くらいに捉えられるようになると、旧いバイクとの付き合いは一気に楽になります。
パウチのオイル、おすすめです。次からもこれでいきます。



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